２００３年に前橋市で起きたスナック乱射事件などで死刑確定後、別の２人の殺害に関与したことが明らかになったとして、改めて殺人罪に問われた元住吉会系暴力団組長・矢野治被告（６９）の裁判員裁判の初公判が１２日、東京地裁（楡井英夫裁判長）であった。矢野被告側は起訴事実を否認し、無罪を主張した。

死刑囚が被告となる異例の公判が始まったきっかけは、矢野被告の「告白」だった。

検察側の冒頭陳述などによると、矢野被告は死刑確定から約半年後の１４年９月、失踪したとされていた元会社社長の斎藤衛さん（当時４９歳）について、「貸した金の返済が滞っていたので首を絞めて殺した」とする文書を東京拘置所から警視庁に送付。１５年６月には不動産業の津川静夫さん（同６０歳）の殺害にも関与したとする文書を同庁に送った。

斎藤さんと津川さんの遺体は１６年、埼玉県と神奈川県の山中で相次いで発見された。矢野被告は１７年に２件の殺人罪で逮捕、起訴されたが、捜査関係者によると、逮捕後は一転して否認に転じたという。

刑法は複数の裁判が確定した場合、「死刑囚には他の刑を執行しない」と規定しており、仮に今回の公判で懲役刑を受けても、矢野被告がその刑を受けることはない。ただ、今回の裁判が終結するまでは死刑の執行は先延ばしになるとみられ、捜査関係者からは「告白は執行逃れのためだったのではないか」との指摘も出ていた。