グリ下、トー横で横行…オーバードーズから若者を守るには 「処方薬」と「市販薬」に必要な規制を考える
若者の薬物乱用に歯止めがかからない。東京・歌舞伎町の「トー横」や大阪・道頓堀の「グリ下」では、処方薬や市販薬のオーバードーズ(過剰摂取)を目的とした譲渡を巡り、関係者が逮捕されるケースが増えている。この現状を打開するため、グリ下に集まる少年少女を支援する田村健一弁護士は「処方薬の流通ルートの根絶」「市販薬の販売規制」を強く訴える。(西田直晃)
◆子どもたちを支える弁護士「1年でより深刻に」
「新宿区や大阪市だけの問題ではない。子どもたちは全国から訪れる。一つの地域ではなく、国全体で食い止めるべきだ」
2020年から、家庭や学校に居場所がない少年少女が集まるグリ下で、声掛けや相談対応を続けてきた田村弁護士。「薬物の横行はこの1年ほどでより深刻になった」と語る。
オーバードーズに走る理由には、虐待や家庭崩壊、性暴力といった背景が指摘されることもある。ただ、田村弁護士は「日常的に現場にいると、深刻な問題というより、家族や友人間の人間関係のつまずきなど、ささいなきっかけが引き金になるパターンが多い」と説明。「人間関係の構築が苦手で、グリ下やトー横にしか居場所がなく、苦しさのガス抜きのためにオーバードーズを始める。普通の子ばかりだ。どんな家庭にとっても、対岸の火事ではない」と呼びかける。
◆2000錠の市販薬も…どうやって入手?
昨秋以降、オーバードーズを巡る逮捕者が相次ぐ。昨年11月には、市販の風邪薬を許可を得ずにトー横で販売した医薬品医療機器法違反の疑いで、16〜22歳の男女4人が警視庁に逮捕されている。定価を下回る値段で販売しており、自宅などから約2000錠の市販薬が見つかったという。今年2月には、グリ下で知り合った女子中学生に処方薬の睡眠導入剤を渡した麻薬取締法違反の疑いで、「グリ下の帝王」と呼ばれた男が大阪府警に逮捕された。
処方薬と市販薬。若者たちがオーバードーズに用いる品目は大まかに2種類に分かれる。「それぞれに対策が必要だ」と強調する田村弁護士。市販薬が安価で転売されているケースについては「万引した風邪薬などが大半」という。
一方、医師の介在が必要な処方薬がなぜ、やすやすと少年少女たちの手に渡ってしまうのか。田村弁護士は流通ルートの一つとして、「処方薬の不正流通を手がける人物は、大阪・西成の生活保護受給者から安く仕入れた睡眠導入剤を転売している。商売として続けてきた」と指摘する。
◆夜行バスで「出稼ぎ転売」
「府警や警視庁も把握しているのではないか。一部の処方薬は、トー横ではグリ下の倍以上の値段で販売されており、夜行バスで関西から『出稼ぎ転売』に通っている者もいる。金もうけのために未成年者が薬漬けにされる。流通ルートにメスを入れてほしい」
市販薬のオーバードーズを巡っては、すでに厚生労働省が販売規制の強化に乗り出している。昨年12月には、20歳未満への販売を原則小容量製品1個に限るほか、写真付きの身分証による年齢確認、販売記録の保存などを販売業者に義務付ける方針を示した。今後の医薬品医療機器法の改正につなげるという。
田村弁護士は「販売業者には耳の痛い話だろうが、子どもたちの命、その後の人生を守るために一定の規制が必要だ。居場所づくりとともに、社会全体でこの問題の解決に取り組まなければならない」と話す。