泥酔客狙うクラブ、立件模索 「準詐欺」適用、起訴されず―警視庁など
JR錦糸町駅(東京都墨田区)周辺のクラブを訪れた客が、酩酊して高額な飲食代を支払わされる被害が相次いだ。
警視庁は飲酒で正常な判断ができない心神耗弱状態に陥ったのに乗じ、金を払わせたと結論。
先月、準詐欺容疑でクラブ経営者の女(55)らを逮捕したが、東京地検は処分保留で釈放した。
酔わせて心神耗弱になったとの認定が難しかったとみられ、専門家は現行法での摘発には限界があると指摘する。
同駅周辺を管轄する警視庁本所署には、昨年末までの2年間で同様の被害通報・相談が約600件寄せられた。
同庁が調べたところ、女らが経営するクラブ3店舗などが関与した疑いが浮上した。
過去の類似事件では、クレジットカードで重複決済した電子計算機使用詐欺罪や、無断で現金自動預払機(ATM)を操作し現金を引き出した窃盗罪での検挙例があった。
しかし、女らは酔った被害者に自らの手で現金を引き出させており、両罪とも適用できなかった。
捜査関係者は「摘発されやすい手口を避けたのだろう」と話す。
同庁は次に、認知症や酩酊状態などで正常な判断ができない被害者に金を払わせる準詐欺罪に着目した。
捜査員らは約2カ月間、クラブ周辺で張り込みを続け、同年11月に店舗とコンビニATMを何度も行き来する男性会社員を保護。
直後の事情聴取の映像や呼気から検出されたアルコール量の記録などを複数の専門医に見せた結果、酩酊による心神耗弱状態と診断された。
警視庁は診断結果に基づき準詐欺容疑で女ら7人を逮捕したが、地検は全員を処分保留とした。今後、不起訴となる見通しだ。
詳しい理由は明らかにされていないが、甲南大法科大学院の園田寿教授(刑法)は「酔客に(飲食を)勧める行為は日常的にあり、犯罪と線引きするのは難しいのでは」と推測する。
一方で、男性は3店舗を約7時間連れ回され、ATMで10回、計41万円を引き出していた。
店に7分ほどしかいなかったのに5万円を支払った時もあり、同教授は「明らかに社会的相当性を超えている」と指摘。
現行法での対応は難しいとした上で、「不当な誘惑的営業行為に焦点を当てた特別法を作り、取り締まるべきだ」と訴えた。