毎日200人が死亡する異常事態【現代のアヘン】合成麻薬「フェンタニル」が米国社会を蝕んでいる
体を真っ二つに折り曲げているこの女性(上の写真)――。靴ひもを結び直しているのでも、ダンスの決めポーズをしているのでもなく、「この姿勢のまま硬直している」と言えば、その恐ろしさが伝わるだろうか。
これは合成麻薬「フェンタニル」乱用者に表れる末期の症状だ。今、アメリカ全土でフェンタニルの蔓延が深刻な社会問題となっている。上智大学教授でアメリカ政治が専門の前嶋和弘氏が語る。
「オバマ政権末期の’16年ごろ、メキシコの麻薬カルテルから持ち込まれて広まり始めたといいます。死亡者は年々増え続け、’23年にはなんと7万人以上がフェンタニルの乱用を原因に命を落としています。現在、一日で200人近くが死亡する異常事態です」
フェンタニルは本来、がん治療などで鎮痛のために用いられる医療用麻薬。しかし、蔓延しているのは医療機関が処方したものではなく、麻薬密売組織が売りさばいているものだ。精神科医で薬物依存症患者の支援を行っている松本俊彦氏が解説する。
「コロナ禍でステイホームが進み、寂しさを薬物で紛らわせる人々が増えました。そこに目を付けた密売組織が、コカインや覚醒剤を混ぜた安価で粗雑なフェンタニルを大量に流通させたのです」
注射、吸入のほか錠剤でも服用でき、1回分は10ドル程度。乱用者には若年層も少なくない。安くハイになれる、嫌なことを忘れられるという触れ込みで多くの人々が気軽に手を出すが、ヘロインの50倍も強力で致死量はわずか2r。一度の使用で命を落とす例もある。
中毒性は極めて高く、服用すると全身の力が抜けてまともに立っていられなくなる。冒頭のように不自然な体勢で立ちつくしたり、フラフラと歩いたり、まさしくゾンビのような状態に陥るのだ。
「トランプ大統領は『フェンタニルの原材料が中国で作られ、メキシコやカナダで加工され持ち込まれている』と主張している。これが『現代のアヘン』と言われる所以です。サンフランシスコやロサンゼルスといった都市部、さらに治安の良さで知られていたポートランドでも蔓延し、職を失った人々がホームレス化し、治安悪化を招いています。日本でも、繁華街ではすでにフェンタニルが出回っていると聞きます」(全国紙外信部記者)
アメリカ国内の18歳から49歳までの死因の1位が、フェンタニルを含む薬物の使用となっており、文字通り、一刻の猶予もない。観光目的の渡航の際も誘惑はある。絶対に手を出してはいけない。