日本に来て二十数年、クルド人男性が突然の強制送還に 政府の「不法滞在者ゼロプラン」で強まる外国人“排除”
日本で暮らしてきたクルド人の男性(トルコ国籍)が、突然トルコに強制送還された。
3カ月に1度、東京出入国在留管理局(東京入管、港区)に出向いた日に、家族に連絡することもできないままだった。
政府が強める「不法滞在者ゼロプラン」によるものだが、関係者からは「人権侵害だ」との声があがっている。
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突然の強制送還だった。埼玉県川口市に住むクルド人の男性Aさん(40代)の弟は今年、トルコに強制送還された。
入管施設への収容を一時的に解かれた「仮放免」の状態で、二十数年間ずっと、約3カ月おきに東京入管に出頭していた。
この日もいつものように入管に出向いたが、そのままトルコに送還されたという。
Aさんによれば、弟は結婚していて、妻とまだ幼い3人の子どもがいる。妻と子どもたちには在留資格があるが弟にはないため、難民申請を3回以上、行っていた。
一度強制送還されると、出入国管理及び難民認定法(入管難民法)に基づき、通常5年間の再入国禁止が適用される。
残された家族はいま、途方に暮れている。妻は日系人でトルコのことは何もわからない。子どもたちは全員日本で生まれ育ったので、トルコに行っても言葉もあまり通じない。妻は遠く離れた夫を心配し、子どもたちは、こう言う。
「パパに会いたい」
■急速に進む外国人政策の厳格化
今年に入って、外国人政策の厳格化が急速に進んでいる。これまで難民申請中の送還は一律に停止されていたが、昨年6月に施行された改正入管難民法で、難民申請が3回目以降の人は「難民認定すべき相当の理由」を示せなければ送還できるようになった。そして今年5月、出入国在留管理庁(入管庁)は「不法滞在者ゼロプラン」を打ち出した。「外国人と安心して暮らせる共生社会の実現」を目的に、難民申請3回目以降の人らを中心に、係官が同行して行う「護送官つき国費送還」を進めると明記した。
入管庁によれば、6〜8月にこの方法で強制送還されたのは119人と、前年同期(58人)の約2倍だ。
国籍別ではトルコが34人と最も多く、スリランカ17人、フィリピン14人、中国10人などと続いた。難民支援の関係者らによると、「トルコ国籍」の大半はクルド人とみられる。
強制送還は何を基準に行っているのか。
■「治安維持を名目とした人権侵害」
入管庁の担当者は、「入管難民認定法24条に則っている」と説明する。24条は、強制的に退去させるべき外国人の条件を定めた条文だ。不法入国、オーバーステイ、資格外活動の専従、刑罰法令違反などが含まれる。
「これらに該当した人につきましては、退去強制となるという形になっております」(同庁警備課)
だが、クルド人の支援団体「在日クルド人と共に」理事の松澤秀延さんは、「治安維持を名目とした人権侵害」と批判する。
「クルド人のように、母国のトルコで迫害され国に帰れない人は多い。強制送還されれば逮捕され、命に危険を及ぼすおそれもある。入管は事情をしっかりと聴き、安易に送還させるべきではない」
クルド人は「国を持たない世界最大の民族」と呼ばれる。トルコやシリアなど中東に約3千万人が暮らすが、少数民族ゆえに、差別や迫害を逃れ、故郷を離れる人も少なくない。埼玉県の川口市や蕨市には、トルコ国籍のクルド人が2千人ほど暮らすとされる。「仮放免」で暮らしながら、難民申請をする人は少なくない。
■日本で生まれ育った子どもたち
冒頭のAさんも仮放免の状態で難民申請を3回以上行っていて、いつトルコに送還されてもおかしくない状態だ。トルコにいた時に政治活動をしているとみなされ、帰国すれば逮捕される可能性が高いという。
「不安。だけど、いまは外国人に厳しいから、仕方がないかもしれない」(Aさん)
Aさんにも妻と3人の子どもがいる。高校生の長女は、父親(Aさん)がトルコに送還されれば、家族が離れ離れになりたくないので、家族全員、トルコに行くつもりだという。しかし、子どもたちは皆、日本生まれで日本育ち。知らない国でどうやって生きていけばいいかわからない。
長女は日本で大学に進学し、将来は医療関係の仕事に就くことを目指している。だが、トルコに行くことになれば、その夢も叶わなくなる。長女は訴える。
「父を、強制送還してほしくないです」
(AERA編集部・野村昌二)
