デザイナーベビーの危険…胎児になる前の初期段階でゲノム編集した場合、子宮に戻すことを法律で禁止へ
不妊や遺伝性の病気の研究などを目的として、ヒトの精子と卵子を受精させた直後に、遺伝子を書き換える「ゲノム編集」の技術が開発されています。
しかし遺伝子を人為的に変えた「デザイナーベビー」を生み出すなどの危険性も懸念されるため、政府は、ゲノム編集した胚を人間の子宮に戻すことを罰則つきの法律で禁止する案を専門家の会議に示しました。
ヒトの精子と卵子を受精させた「受精卵」は、細胞分裂を繰り返し、まずは「胚」という状態になり、さらに胎児へと成長します。
そのごく初期の「胚」の段階で、人の体の外で特殊な操作を行い、遺伝子を書き変える、ゲノム編集の技術がすでに開発されています。
仮に、体外でゲノム編集されたヒトの胚を子宮に戻し、それが順調に育てば、遺伝子が書き換えられた人間が生まれる可能性がありますが、諸外国では、安全面や倫理面の課題があるなどとして、この胚を人間の子宮に戻すことを罰則つきの法律で禁止しています。
日本では学会の規則などで禁止しているものの、罰則もなく、実効性がない状態だということです。そのため、4日、政府は専門家の会議に、罰則つきの法律を今後作り、「ゲノム編集されたヒトの胚」を人間の子宮に戻すことを禁止する案を示しました。
一方で、遺伝子を書き換えた人間を生み出す目的ではなく、遺伝性の病気の研究や生殖医療の研究などのためであれば、ヒトの胚にゲノム編集を加え、人間以外の動物の子宮に入れることを条件付きで認める方針です。
この場合、研究機関などは「取扱計画書」を国に届け出て、承認を得る必要があり、計画の内容によっては取り扱い中止や改善命令が出されるということです。政府は法律のほかに、届け出の詳細などを定めた指針も作る予定です。
■中国ではゲノム編集で双子誕生
ゲノム編集の技術は野菜や魚などの品種改良ですでに使われているほか、難病患者を治療するための臨床研究なども行われています。
そして世界に衝撃が走ったのは、2018年、中国でゲノム編集技術を用いたヒト受精胚から双子が誕生したと公表され、翌年、中国政府により、これが事実であると確認されたことでした。こうした事態を懸念した日本の専門家の会議はこれまでも「法的な規制が必要だ」という結論をまとめて政府に提出してきましたが、ほかの法律に比べて、優先順位が低いなどとして、これまで法律が作られてきませんでした。
■規制が必要なワケ…親が子どもの容姿や能力をデザインするデザイナーベビーの危険性も
ゲノム編集された子どもが生まれることをなぜ禁止すべきなのか?それは技術的、社会的、倫理的な課題があるからだといいます。
遺伝性の病気などについては、生まれてくる赤ちゃんをごく初期の「胚」の段階でゲノム編集し、その病気にならないようにできる可能性がある一方で、ゲノム編集の技術はまだ安全性が確立しておらず、何らかの病気や障害につながる可能性もあります。仮にそうなると、生まれた子どもが差別されないようプライバシーを守りつつ、その子や子孫の健康にまでどう影響するのか、長期的にフォローする必要があり、その体制がとれるのかが課題です。
また、遺伝性の病気の患者などの排除につながりかねないといった社会的、倫理的な課題もあります。専門家の会議に示された政府の案には次のように記されています。「遺伝子の総体が過去の人類からの貴重な遺産であることを考えると、脆弱性を理由に次の世代に伝えないという選択をするのではなく、その脆弱性を包摂できる社会を構築すべきという意見がある」
さらには、ゲノム編集によって、親が子どもの容姿や能力、性格などを思いのままに「デザイン」する、いわゆる「デザイナーベビー」の誕生につながるともいわれています。親が自分とは別の人間である子どもの特徴を決めて良いのか、また、人為的に何かの能力に秀でた人間を大量に生み出そうといった発想にならないか、など倫理的な問題が指摘されています。
4日の専門家会議で、政府の案が了承される見込みで、政府は来年の通常国会で新しい法律を作ることを目指しています。
