テレビでは流れないが…埼玉県八潮市陥没事故 74歳ドライバーの日常と素顔と家庭
人生、一寸先は闇──。埼玉県八潮市の道路陥没に巻き込まれた74歳のトラックドライバーの不運を思うと、つくづくそう感じ、うなだれる。
信号が青に変わり、トラックは左折した。それを見計らったかのように道路が陥没したという。不運は重なる。地底から水が湧き出しアリ地獄にのみ込まれるようにトラックは沈んでいき、その上、第2の大規模陥没が起こった。
道路の管理者である大野元裕県知事は2月11日、ドライバー救出までに約3カ月かかる見通しだといった。「救出」という文字がむなしい。
なぜ、トラックごと引き上げるのではなく、ドライバー救出を最優先にしなかったのか。道路に圧のかかる大型クレーン車ではなく、ヘリでの救出という手はなかったのか。
日に日に陥没面積が大きくなる映像を見ながら、怒りとため息が交差した。
県は捜索の妨げになる下水の流量を減らすため、上流域の住民に排水量自粛を要請し、15日間にも及んだ。だが、このような災害時にテレビが必ずやってくる被害者家族の情報が、今回に限ってなかったのはなぜなのだろう。
週刊新潮(2月13日号)によれば、「あそこは古くからある家族経営のところでね。所有するトラックも数台、ドライバーも数人しかいなかったと思う。(中略)道でトラック同士すれ違う時なんかも手を上げてくれる。朗らかな印象の方ですよ」(地元の流通業界関係者)とのこと。
勤め先とおぼしき事務所には、心情を察して欲しい旨の張り紙が貼られていたという。
女性セブン(2月20・27日号)ではドライバーの孫の男性が、「ただただショックで……一体、何が起こったのか。現場にも行けていないので、心配しています」と話している。
知人は、「お孫さんに2人の子供が生まれて、Bさん(ドライバーのこと=筆者注)は“ひいおじいちゃん”になったんです。もともとお孫さん思いのかただったので、ひ孫となれば一層かわいかったんじゃないかな。両手で2人のひ孫の手を引いて、近所をしょっちゅう散歩していました。誰が見ても、幸せな大家族でしたよ」と語る。
別の知人は、「ただ最近は忙しくしていたようで、夜まで帰ってこない日も増えていました。もともと寡黙な仕事人でしたが、ますます仕事一筋という感じだった。あの年で運転手を続けられるだけでもすごいのに、もしかしたら仕事量を増やしていたのかもしれません。ひ孫たちとも、まだまだ一緒に遊ぶつもりでいるんじゃないかな。一日でも早く、家族のもとに帰してあげてほしい」と話している。
ひ孫に何か買ってやりたくて仕事を増やしていたのだろうか。悲しい。
週刊新潮によれば、事故原因は地下10メートルの下水管が壊れたことだったが、国交省によると、このような陥没は、小さいのを含めると令和4年だけで約2600件も起きているという。中でも、61年前の東京五輪開催のために公共インフラを整えた東京には、耐用年数の50年を超える下水管が多くある。
更新工事が行われているが、私の住んでいる中野区の工事着工は4年先だというから不安である。
新潮で東洋大学大学院経済学研究科の根本祐二教授は、高度成長を成し遂げた日本が真っ先にインフラの老朽化に直面していて、今のインフラを維持するための平均更新投資額は22年時点の推計で年間約13兆円にも及ぶという。
石破首相よ、トランプなんぞに150兆円もくれてやる余裕は、今の日本にはないのだ!