「なんで出航させた!」怒りの家族 怒号、憤り、悲嘆…配布資料は紙1枚 非公開で社長説明会
最愛の人が奪われ、今も見つからない悲しみや不安、そして怒り。
北海道・知床半島沖で観光船「KAZU I(カズワン)」が遭難した事故で、運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長は、記者会見に先立って家族への説明会に臨んだ。
非公開で行われた2時間10分の説明会。桂田社長に対し、家族らのやり場のない感情がぶつけられた。
説明会には50人以上が出席。桂田社長は冒頭と最後に1度ずつ土下座し、震える声で「申し訳ない」と謝罪。
「なんで出航させたんだ」「家族の気持ちを考えたことがあるのか」と怒号が飛び交い、泣き出す家族もいた。
安全運航に関する意識の低さや、事故当日の社長の動きをもっと詳しく知りたいという声もあった。
配布した資料は記者会見と同じく事故前後の経過を時系列順に並べた1枚だけ。憤りのあまり突き返す家族もいた。
馬場隆・斜里町長によると、出席した家族の中には、死亡が確認された加藤七菜子ちゃん(3)=東京都葛飾区=の祖父母の姿もあった。
七菜子ちゃんと一緒に乗っていた両親がまだ見つかっておらず、説明会後に「早くみんなで一緒に帰りたい」と祈るように語っていたという。
事故で犠牲になったぬで島優さん(34)の両親はこの日夜、千葉県松戸市の自宅前で取材に応じ、桂田社長の会見について「土下座はポーズでしょう。対応が遅かった」と不信感を募らせた。
説明会後に行われた記者会見は、希望する乗客家族にオンラインで映像が中継された。国交省などによる家族説明会は28日も行われ、桂田社長も足りなかった部分を説明する。
不明者15人の捜索はこの日も続いた。第1管区海上保安本部(小樽)などが巡視船やヘリコプターでの捜索や潜水調査を実施。地元漁協によると、荒天になるのを見越し、漁船は参加を見送った。
船体の捜索も続くが、この日まで見つかっていない。海保はより広範囲に深海まで探索できる測量船を30日から投入する予定。一刻も早い不明者と船体の発見を家族は待っている。
【運航会社が示した経過】
▽2021年5月 カズワンで船首と浮遊物の接触事故
▽6月 カズワンが船尾を暗礁にこする座礁事故。豊田徳幸船長が運航
▽7月 座礁事故のため造船会社で修理し、検査で合格。北海道運輸局から事故2件で行政指導
▽22年1月 シーズン入りに向け、造船会社にカズワンの整備を依頼
▽4月15日 整備が完了。複数回のテスト走行
▽20日 日本小型船舶検査機構の中間検査で合格
▽21日 ほかの3社と事故想定の救助訓練。海上保安庁の定期安全点検で、救命胴衣、船体を検査。亀裂などの指摘なし
▽23日午前8時ごろ 豊田船長から午後の天気が荒れる可能性があるが出航可能と報告。この時点で風と波が強くなかったので、海が荒れたら引き返す条件付き運航を決定
▽同30分 同じ会社の別の船長から会社の無線のアンテナが故障と報告があり、すぐ業者に修理を依頼。携帯電話やほかの運航会社の無線でやりとり可能として、出航は取りやめなかった
▽午前10時 カズワンがウトロ港を出る
▽午後1時13分 カズワンがほかの会社に「カシュニの滝だけど戻るのが遅れます」と無線連絡
▽同18分 カズワンがほかの会社に「船首が浸水している」など無線で救助を求める。ほかの会社は海保に救助要請。カズワンは海保とやりとり
▽午後4時半ごろ 海保の航空機が到着し、救助活動を開始