ネズミ急増の千代田区、ごみを蓋つき容器で出すよう条例化へ…高齢者が体かじられる被害も
秋葉原や有楽町などの繁華街を抱える東京都千代田区でネズミに関する苦情が急増し、区は来年度、ネズミの餌とならないよう、可燃ごみを出す際のルールを厳格化する方針を固めた。
関連条例を改正し、家庭ごみか事業系ごみかを問わず、蓋付きの容器に入れることなどを定める方向だ。区によると、ネズミ対策を目的としたごみ出しに関する条例は異例という。(石坂麻子)
先月下旬の朝、飲食店が立ち並ぶJR神田駅東口の路上。ごみ出しの状況を視察していた区職員らが、ネズミにかじられたとみられる穴の開いたごみ袋を見つけた。「いたぞ!」。すぐ近くを20センチはあるドブネズミが走り回り、あっという間にビルの隙間へと逃げ込んだ。
区によると、2018年度に64件だったネズミに関する苦情や相談は右肩上がりで、昨年度は402件に達した。今年度は10月末までで241件と、昨年度を上回るペースで増えている。
区は、東京五輪・パラリンピックに合わせて再開発が進んだことに加え、コロナ禍が収束して街がにぎわいを取り戻した結果、繁華街を中心にネズミの餌となる生ごみが増えたことなどが理由とみる。
高齢者が自宅にすみ着いたネズミに体をかじられるなど、被害の報告も寄せられている。排せつ物がサルモネラ菌による食中毒を引き起こしたとみられるケースも確認された。
事態を重く見た区は、昨年度から年間1650万円の予算を計上して対策を強化。殺そ剤入りの餌でネズミを駆除するなどしてきたほか、生態や分布を調べるため捕獲用のわなを順次設置した。ごみ収集・運搬業者の協会と協定を結び、ネズミが嫌うにおいを素材に練り込んだごみ袋も試験的に導入した。
だが、苦情や被害は収まる気配がみられない。そのため区は、餌となるごみの管理を徹底することで、ネズミを増やさないようにする必要があると判断した。
区が参考にするのが、神田エリアにある「鍛冶町二丁目町会」が昨年11月に設けた独自ルールだ。飲食店などの事業系ごみは蓋付きの容器に入れるよう定め、ごみ出しの時間も、店舗の終業後から午前2時までに限定した。その結果、「ネズミの数が目に見えて減少し、街の美化につながった」(平野恵一町会長)という。
現在の「区一般廃棄物の処理及び再利用に関する条例」では、ごみの出し方について具体的な規定はない。区は条例を改正し、同町会と同様のルールを家庭ごみにも拡大した上で、区全域を対象としたい考えだ。
ただ、ごみ出しのルール厳格化は、市民生活や事業活動に与える影響も大きい。蓋付き容器を誰が管理するかなど実務的なハードルもあるため、区は今後、有識者の意見も踏まえて改正案の内容を慎重に検討する。
千代田区の樋口高顕区長は読売新聞の取材に対し、「今、対策をすればまだ間に合う。条例を導入して、ごみ出しについての規範意識を醸成していきたい」と話した。
ネズミに関するトラブルは全国的に増えている。駆除業者などでつくる日本ペストコントロール協会(東京都)によると、害虫・害獣の相談窓口に全国から寄せられたネズミの相談件数は、2014年度は4525件だったが、23年度は9948件と、10年で2倍以上となった。
同協会の谷川力理事によると、特に繁華街のドブネズミが増加しているという。谷川理事は、コロナ禍が終わり、飲食店を中心に餌となる生ごみが増えているほか、人間に慣れたため人目につくところに出没しやすくなっていると推察する。
クマネズミやハツカネズミが屋内にすみ着くことがあるのに対し、ドブネズミは下水管やコンクリートの割れ目などに生息する。雑食で、どう猛な性格で知られる。谷川理事は「まずはごみの管理の徹底から始めることが大事。その上で、対策をステップアップさせる必要がある」と話している。